この質問を受けることがかなり多いです。
著者の大西泰斗先生は『ハートで感じる英文法』や『ネイティブスピーカーのシリーズ』などで有名ですし、2018年4月からはNHKラジオ英会話の講師にもなったりしていますね。さらに最近は、高校総合英語FACTBOOKという高校生向けの学校専売の文法書も書かれています。(※その後、高校総合英語FACTBOOKは書店でも販売されるようになりました)
「一億人の英文法」は本屋の英文法コーナーで普通に平積みされてますし、Amazonでもかなり売れている評価の高い参考書なので「とりあえずこれでいいのかな?」となっても仕方ないかもしれません。
「英単語のコアイメージや、ネイティブの意識を説明する」のが得意な大西先生の集大成のような本が、
この『一億人の英文法』だと思います。私も、もちろん発売日当日に買って読みました。この英文法書はTOEICの対策に使う本として、適切なのでしょうか。今回はそのあたりを書いていきたいと思います。
一億人の英文法は本当にTOEIC対策におすすめなのか
『一億人の英文法』はTOEICの対策としては特におすすめの文法書ではない
まず、『一億人の英文法』が良い本であることは間違いありません。英語学習を頑張りたい人には、いつか通読してほしい英文法書です。
しかし、TOEICを受けようとか英語をやりなおそうとか思ってる大学生や社会人の人や英語初心者の人には、積極的におすすめ出来る文法の参考書ではありません。少なくとも、TOEICのスコアアップに遠回りしたくない人には、とてもすすめられません。(勉強にはなりますが)
TOEICの対策として『一億人の英文法』をおすすめしない理由
『一億人の英文法』は世間のイメージよりも高度な文法書
『一億人の英文法』はみなさんが思ってるより、かなり高度なことが書いてある本です。大西泰斗先生のイラストや文体などでかなり読みやすくなっているので、そんなに難しい感じはしないと思うかもしれません。
中学英語がわかっていれば読めると書いてありますが、この文法書には認知言語学の研究の成果がたくさん盛り込んであります。実は読者への要求レベルは思ったより高いです。その認知文法のアプローチが英語学習者に新鮮にうつり、ここまで人気になったと思うのですが、英語初心者の方が通読して全ての内容をしっかりと消化していくのは少し厳しいと思います。
『一億人の英文法』は読み物的な面が結構ありますが、『表現英文法』は正統派(?)な感じの文法書になっていますね。実際のスピーチなどの引用がとても多い本です。
大西泰斗先生独自の文法用語に混乱する人も
また、文法用語がところどころ大西先生独自の文法用語に置き換わっていたり、新しい用語を作って説明されたりもしているので、逆に混乱する人もいるかもしれません。例えば、
- 第4文型が授与型
- 第5文型が目的語説明文
- レポート文
などです。
「一億人の英文法」はページ数や情報量が多い&辞書的に調べて使う用途には向かない
『一億人の英文法』は情報量も普通にかなり多いです。ページ数も約670あります。TOEICにはそんなに高度な内容、量の英文法知識は必要ありません。
さらに、この本の作りや性質を考えると、普通の総合英語や英文法書のように、疑問点などを調べていくという用途には向いていません。これは著者の大西先生が、この本を
として出版していることとも関係していると思います。
実際、出版当初はこの文法書には索引すらありませんでした。今は東進WEB書店のHPで索引のpdfファイルをダウンロード出来ますが、読者から「索引をつけろ!」という声が多く出版社の方が対応したという形です。
その時も大西先生は「『一億人の英文法』は通読する本だから索引なんかいらないんだけどね」みたいなことをブログか何かでおっしゃっていた記憶があります。個人的には索引のpdfがダウンロード出来るようになって良かったです。「『一億人の英文法』ではどんなふうに書いてあったかな?」と、ふと調べたくなったりしますからね。
関連記事:英文法書や総合英語は通読するべき?辞書として使用するべき?
TOEICにはもっと効率的なスコアアップの対策がある
TOEICは『一億人の英文法』で学べる英語のネイティブの意識がどうとかよりも、高校までの基礎をしっかり固めた上で、TOEICでよく出る英単語を覚えて『TOEIC公式問題集』をやるのが一番はやいです。
「一億人の英文法とTOEIC対策」についてのまとめ
以上のような理由から、『一億人の英文法』は内容、量、本の趣旨、つくりを考えると、TOEIC対策としては効率が悪いと言わざるをえません。
ネイティブの意識を説明されただけでは、自分がその感覚ですぐに英語を使えるようになるわけではありません。「話すための」と銘打ってありますが、もちろん読んだだけで話せるようにはなりません。
また、ある程度ちゃんと英語を勉強した人じゃないと、「分かったつもりになっただけ」で終わったり、「最後まで読み進むことが出来ない」可能性がかなり高いです。大西先生も言うように、英語が使えるようになるためには「音読や暗唱などの、読んだ内容を実際に自分の血肉とする作業」が必要なのですが、何とか読み切ったという感じの人にはやり遂げるのは困難だと思います。
一度通読しただけでは「面白かったー」となって終わるだけの可能性も高いです。どうせやるなら徹底的に読み込んで、例文も瞬間英作文出来るくらいまでやり込むことをおすすめします。
また、緑色の表紙の『一億人の英文法問題集 大学入試対策編』という本がありますが、あれは大西泰斗先生は監修しているだけなので注意して下さい。大学入試対策にはもっと他に適した英文法の参考書や問題集があります。
じゃあ、一億人の英文法はいつ使えばいいの?
『一億人の英文法』は、大学受験英語レベル、出来ればTOEICを卒業するくらいのレベルで一度読んでみると良いと思います。今までと違った新しい発見などがあり、とても勉強になるし新鮮で面白く感じるはずです。
さらに英語学習が進んだ後でもう一度読むと、
- 「あー、そうそう、そんな感じしてた!この感覚で合ってたのかー。というか、それを説明してるこの本すげー」
- 「こう書いてるけど、ちょっとしっくりこないなぁ。他の文法書ではどう書いてるのか調べてみよう」
と思ったりすることも結構出てきて、さらに勉強になると思います。
『一億人の英文法』の例文の英語音声が欲しい方は『一億人の英文法CDブック (東進ブックス)』という英語音声付きの重要例文集が出ていますのでそちらを利用するのもいいでしょう。
TOEICに一億人の英文法を使わないのは分かった。じゃあ代替案は?
まずは、普通に英単語を覚えつつ(高校レベルまでの英単語+『TOEIC L & R TEST 出る単特急 金のフレーズ (TOEIC TEST 特急シリーズ)』などのTOEIC用単語集)、総合英語を参照しながら高校基礎文法を確認するのが良いと思います。やはりTOEICでも高校までの基礎は重要な土台となります。
その後、『TOEIC公式問題集』をメインに(必要であれば)パート別の本を解いていき、TOEICに必要な英単語・英文法語法の知識を肉付けしていくのが良いです。
高校基礎英文法のおすすめ参考書・問題集
中学~高校基礎レベルの英文法の確認・復習は
- 大岩のいちばんはじめの英文法 超基礎文法編
- 高校英文法基礎パターンドリル
などがおすすめです。ボリュームも少なく(それぞれ230ページ、144ページ)、高校でやる英文法の基礎がざっと確認出来ます。
- 「英文法はとにかくさっぱりだから、説明重視の本がいい」という人は『大岩のいちばんはじめの英文法』
- 「大体はたぶんOKだと思うから問題でざっと確認したい」という人は『高校英文法基礎パターンドリル』
このような基準で選んでもらって大丈夫だと思います。『高校英文法基礎パターンドリル』は少し網羅性が落ちるので、気になる人は『大岩』を使うといいでしょう。
関連記事:『大岩のいちばんはじめの英文法【超基礎文法編】』のレビューと使い方!読みやすいおすすめの講義系参考書です。
英文法の勉強や瞬間英作文におすすめの問題集「高校英文法基礎パターンドリル」の使い方を解説!英会話や大学受験、TOEICの対策準備にも!
高校総合英語(文法書)のおすすめ
総合英語のおすすめは
- アトラス総合英語
- ジーニアス総合英語
- 総合英語Evergreen
定番の『Evergreen』、後発組の良さが出ている『ジーニアス』、個人的なおすすめ『アトラス総合英語』。この3冊のどれかがおすすめですね。他にも、高校生の頃に学校からもらった『 Forest(現Evergreen) 』、『デュアルスコープ』、や『 be 』『ビジョンクエスト』などの総合英語の本があれば、それでもいいです。
関連記事:【英文法】総合英語はどれがおすすめなのか?『総合英語Evergreen』『ジーニアス総合英語』『アトラス総合英語』
『TOEIC公式問題集』などをやっていて出てきた疑問や、自分の苦手な英文法項目を調べましょう。やる気のある人は通読しても良いですよ。
『ロイヤル英文法』一般の英文法書のおすすめ
「どうせ調べる用途で使うなら、もっと網羅性のある一般の文法書を持っておきたい」という人は
- ロイヤル英文法(青ロイヤル)
- 表現のための実践ロイヤル英文法(黃ロイヤル)
このあたりを持っておけばいいでしょう。
『黃ロイヤル』は暗記用例文集も良いものがついています。網羅性は『青ロイヤル』の方が上ですね。私は『青ロイヤル』も『黄ロイヤル』も本、Kindle版の両方を持っているのですが、個人的にはKindle版の黄ロイヤルをおすすめします。
別冊例文の音声もダウンロード出来ますし、各英文法項目にリンクが張ってあるので、タップするだけで色々な文法項目を行ったり来たりするのが楽に出来て便利です。スマホやタブレットで見られますので、どこにいても調べたい時にすぐ調べることが出来ます。一方、本だと分厚いので常に持ち運ぶというのは大変ですよね。
関連記事:『表現のための実践ロイヤル英文法』のレビューと使い方!自然な英語を学べる現代のスタンダードな英文法書です【黄ロイヤル】
総合英語も、一般の文法書も、1ページ目から全部読むというわけではなく、基本的には分からなかったところを調べるという使い方で良いと思います。(もちろん、全部読んでもいいですが)。また、自分の苦手な部分はその単元まるごと読むと、意外とすっと理解できることも多いので頭に入れておいて下さい。
この記事で紹介している勉強が終わったくらいの英語力があれば、TOEIC用の本で効率的に対策が始められると思います。
でも、大西メソッド、ネイティブの意識や単語のイメージに興味がある。一億人の英文法以外に何かおすすめの参考書ないの?
『一億人の英文法』と同じ、大西泰斗先生が書いた『英単語イメージハンドブック』や『音声DL BOOK NHKラジオ英会話 英文法パーフェクト講義 上 (語学シリーズ 音声DL BOOK|NHKラジオ英会話)』を読むことでその願いは叶います。個人的にはどちらもかなりの良書だと思います。
どちらの本も、説明が分かりやすく簡潔なのでサクサク読めますし、分量もちょうどいいです。大西メソッドの雰囲気は十分に味わえる本です。(『英単語イメージハンドブック』の方がより軽めの本です。)
もしくは、普通にTOEIC用の勉強をしつつ、一億人の英文法を「息抜きで楽しむ、英語の勉強とは別枠の読書用」で少しずつ読むのがおすすめです。高度だの量が多いだのと言っても、やっぱり普通の英文法書とは違う視点で書いてあるので面白いですしね。
『NHKラジオ英会話英文法パーフェクト講義』は「NHKラジオ英会話英文法パーフェクト講義」大西泰斗 中学~高校英文法の参考書・瞬間英作文用の教材としておすすめ!という記事で詳しく紹介しています。
『総合英語 FACTBOOK これからの英文法』大西泰斗/ポール・マクベイ
「うーん、英単語イメージハンドブックもパーフェクト講義も良さそうだけど、勉強してる時に辞書的に調べ物で使えそうなのが良いんだけどなあ……総合英語みたいな」と思った人、いませんか。
あるんですよ、総合英語。大西泰斗先生が書いたものが。
それが『総合英語 FACTBOOK』です。ちょっと他の総合英語とは毛色が違っていて、こちらも大西メソッドを感じられるものになっています。
私のイメージとしては「一億人の英文法と普通の総合英語を混ぜたような本で、英文法項目の説明は力を入れるところとあっさり説明するところが結構はっきりしている」という感じです。
その例をひとつ挙げると、『総合英語FACTBOOK』では現在完了形の解説に10ページ使っているのに対し、過去完了の解説に使われているのは2ページだけです。コアの部分をしっかりとマスターすれば、あとは単なるバリエーションという方針でしょうかね。
総合英語なので、高校英文法がちゃんと網羅されていますし、『一億人の英文法』と違って索引もあるので調べ物にも使えます。「今は難しいけど、ゆくゆくは一億人の英文法を読むぞ!」という人はこちらの『総合英語FACTBOOK これからの英文法』がおすすめです。
一億人の英文法のまとめ
- 文体やイラストが多く読みやすいが、内容は思っているよりも高度
- 約670ページと情報量も多い
- 通読用に書かれた英文法書なので、調べる使い方には向いていない(索引はpdfで別途用意)
- 独自の文法用語に混乱する可能性がある
大西メソッドに触れたいなら、他にもっと手頃に手を出せる
- 『英単語イメージハンドブック』
- 『NHKラジオ英会話英文法パーフェクト講義』
調べ物用として辞書的にも使える『総合英語 FACTBOOK これからの英文法』がある。索引付き。
『一億人の英文法』は良い英文法書だけど、適材適所。自分のレベルや目的にあってないものを使うと効率が悪いし、イヤになる。勉強が続かない……ということにもなりかねないので注意が必要です。
私としては「すごく良い本なのは間違いない。しかし、TOEICの勉強、対策を効率的に…という目的では一億人の英文法を使うのはおすすめはしない。他の大西先生の本なども検討してみては?」という結論になります。
「ネイティブ感覚はこうなんだ!目からウロコだわ」という感想とはまた違って、色々な見方が出来るようになっていると思います。『一億人の英文法』については、別の機会にもっと詳しいレビューをしっかり書きたいですね。
英文法の勉強と同時進行で英語多読でたくさんの英文に触れることなどにより、大西先生の言う「ネイティブの感覚」が少しずつですが分かってくると思います。
関連記事:日本人が洋書を読めない主な理由と、読めるようになるのに必要なこと
TOEICの対策や勉強についての記事の一覧は、こちらの「カテゴリ:TOEIC対策の記事一覧」をどうぞ。目標スコア別の対策記事や、リスニングパートやリーディングパートの解き方、塗り絵対策の記事などを書いています。
下記のような、「苦手な人が急に増える英文法項目についての記事」も書いていますので、興味があればぜひ読んでみて下さい。
- 完了不定詞と時の組み合わせ(seem to have been などの話)
- 原形不定詞 使役動詞 make, let, have, get の違い
- 不定詞 be動詞 + to do
- 未来のことの仮定を表す仮定法 were to と should の違い
- almost, most の使い方と違い(almost all of やmost of など)
- 「仮定法現在」の説明と、なぜ should や原形を使うのか
- 接続詞・前置詞・関係代名詞 as の用法・意味のまとめ、解説
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- 比較 「 no more than, no less than, not more than, not less than 」の意味の違い、考え方のまとめ